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MUSICAL TRIP TO HAITI


musical trip to haiti
Japanese Title ミュージカル・トリップ・トゥ・ハイチ
Date the mid 1950s - the early1960s
Label ボンバBOM2037(JP)
CD Release 1991
Rating ★★★★
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Review

 50年代から60年代にかけてのヘイシャン・ミュージックの魅力を知るうえでヌムール・ジャン・バチストはぜったいにはずせないけれども、なにもヌムールのコンパ・ヂレクトだけがハイチの音楽ではない。アンソニア原盤をもとに有名無名5組のグループの演奏を日本独自に選曲・編集したこのコンピレーションがそのことを教えてくれる。

 このなかで一番有名なのは、“カダンス・ランパ”というスタイルを考案してヌムールと人気を二分したウェベール・シコー。本盤にはかれの60年ごろの演奏を7曲収録。力づよいサックスのリフであるだとか(ウェベール自身はアルト・サックス奏者)、アコーディオンをフィーチャーしている点だとか、演奏のスタイルはヌムールの“コンパ・ヂレクト”とほとんど変わりがないし、音楽的水準もけっしてヌムールにひけをとっていない。
 カダンス・ランパ'CE LA FIEVRE'では、サックスとトランペットのリフが交互に重なり合いながらドライヴ感を高めていく手法にキューバ音楽からの影響が感じられ、これにグィロとコンガが加わり演奏をグイグイ煽っていく。同じくカダンス・ランパの'PA FAI'M CA'では、ヌムールが使っていなかったトロンボーンがいい味を出していて、曲調はどこか小アンティル諸島の音楽を連想させる。チャチャチャ風メラング'AMOUR D'UNE FEMME'もキューバ音楽にはない雑然としたムードがかえって陽気さをさそう。ヨーロッパから伝わった古典的舞曲がアフロ的要素と混じり合って生まれたコントルダンスとカダンス・ランパが交互に演奏される'CONTREDANCE #9'の優雅な雰囲気は、後半にフィーチャーされるウェベールのしなやかなアルト・サックス・ソロととあいまって楽しさも格別。
 
 ウェベールに次いで有名なのが本盤中7曲をしめるラウール・ギョームで、ハイチではすぐれたコンポーザーとして知られるアーティストという。ヌムールやウェベールの前の時代から活躍していたひとらしく、演奏内容はノンキで牧歌的な印象がつよい。メラングを基本としながら、西アフリカの宗教儀礼に起源をもつヴドゥン(英語ではブードゥー)の流れ、トリニダードのカリプソなどの要素が混じり合って、スタイルとしては未完成ではあるがどこか愛らしさが感じさせる音楽に、わたしはスカが誕生する前の50年代のジャマイカのポピュラー音楽を連想してしまった。
 ちなみに、ここに収録されている'MADAME BRINO'というラウールの作品は、アンヘル・ビローリアの死後にバンドを引き継いだドミニカ共和国のラモーン・ガルシアが'CABARAGUINO'のタイトルでレコーディングしていることを解説を読んで知った(ANGEL VILORIA "MERENGES VOL.2" (ANSONIA HGCD1207)に収録)。2枚とも買って10年以上経っているのにいまになって気づくとは不覚。演奏のインパクトはオリジナルよりもむしろガルシアにある。
 
 そのほか、アンサンブル・デュ・リヴィエラ・オテルの1曲もマルティニークやグァドループなどフランス語圏カリブ諸島の音楽にそっくりだし、ミュラー・ピエールの演奏にはめずらしくピアノ・ソロが入り、オルケストル・シタデールの4曲はメラングとコンパ・ヂレクトの過渡期的な演奏でそれぞれに興味深い。
 ハイチの音楽はさまざまな音楽要素が複雑に入り組んでいるうえに文献がとぼしいことからわからないところが多く、中村とうよう氏ではないが、その謎こそがハイチの音楽のおもしろさでもあることは本盤を聴けばじゅうぶんにわかろうもの。


(9.8.02)



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by Tatsushi Tsukahara